近年、業界業種問わずさまざまな企業がSDGsに関する取り組みを実施しています。
住宅業界においても、SDGs経営に取り組んでいる企業が増えています。SDGsに取り組むことによって、工務店のブランディング、資金調達、採用力の向上などの効果が期待できます。
本コンテンツではSDGsとは何か?について簡単に説明した後、工務店がSDGsに取り組むメリットや手法、具体的な事例について紹介します。
- SDGsとは何か
- 工務店がSDGsに取り組むメリット
- 工務店がSDGsを導入する方法
- 工務店がSDGsに取り組んでいる事例
本コンテンツの学習にかかる目安時間は10分〜15分程度です。
本コンテンツの目次
SDGsとは?
SDGsとはSustainable Development Goalsの略称で、直訳すると「持続可能な開発目標」となります。
2015年の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された国際目標で2030年までに達成すべき17の目標と169のターゲットが定められています。
一昔前に注目されたCSR(企業の社会的責任)の流れから近年さまざまな企業がSDGsに定められた17の目標を達成するための取り組みを行っています。
- 貧困をなくそう
- 飢餓をゼロに
- すべての人に健康と福祉を
- 質の高い教育をみんなに
- ジェンダー平等を実現しよう
- 安全な水とトイレを世界中に
- エネルギーをみんなに。そしてクリーンに
- 働きがいも経済成長も
- 産業と技術革新の基盤を作ろう
- 人や国の不平等をなくそう
- 住み続けられるまちづくりを
- つくる責任、つかう責任
- 気候変動に具体的な対策を
- 海の豊かさを守ろう
- 陸の豊かさも守ろう
- 平和と公正をすべての人に
- パートナーシップで目標を達成しよう
工務店がSDGsに取り組むメリット
工務店がSDGsに取り組むメリットは環境問題や地域に貢献するといった企業の社会的責任を全うできることだけではありません。
工務店のブランド価値の向上やESG投資による資金調達、採用力の向上などさまざまなメリットがあります。
SDGsに取り組むメリット:工務店のブランディング
CSRと同様にSDGsに取り組むことにより、工務店のブランドイメージは向上します。
「SDGs」や「エシカル」といったキーワードが注目を集めており、現代の消費者はただ商品・サービス自体のコストパフォーマンスが高いだけではなく、その企業や商品にブランドストーリーを求める傾向にあります。
そのため、ただ住宅を建てるだけではなく、その住宅がどのように環境に優しいのか、またそれを作る企業が社会にどう貢献しているのかといったストーリーが工務店には求められます。
この際に活用できるのがSDGsです。もともと工務店の中には地域貢献や環境に配慮して経営されている企業はたくさん存在しましたが、あまり注目を集めていませんでした。
このような企業の取り組みをSDGsという枠の中で再度、整理して消費者に訴えかけることにより工務店の対する印象は良くなります。
SDGsに取り組むメリット:資金の調達
SDGsと同時期に発生して注目を集めた概念がESG投資です。ESG投資とは「環境(Environment)・社会(Social)・企業統治(Governance)に配慮した投資」のことを指します。すなわち企業投資をする際に単に収益性や事業の成長性だけではなく、環境や社会にどの程度良い影響を与えているのか、ガバナンスが利いているのかといった要素も判断要素に組み込んだ投資のことを指します。
すでに株式投資などに関してはESG投資スタイルを取る機関投資家なども増えています。例えば、日本最大の機関投資家である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)はESG視点を投資に組み入れることを原則とした国連責任投資原則(PRI)に2015年に署名しています。
さらに銀行融資においても企業のESGを考慮した「ESG融資」を行う銀行・信用金庫などが出現しており、中小企業の融資においても少なからず影響を与えると考えられます。
加えて、SDGsに関連した補助金、助成金なども考慮するとSDGs、ESGに対応することにより工務店の資金調達に関して様々な良い影響が期待できます。
SDGsに取り組むメリット:採用力の向上
SDGsに取り組む企業はブランド価値が高まり、採用力も向上すると考えられます。特にZ世代はSDGsに関心が高く、SDGsに取り組んでいる企業を高く評価する傾向があると言われています。
Z世代とは主に1990年代後半から2000年代に生まれた人のことを指します。これらの世代は現在、高校生・大学生や新入社員程度の年齢で新卒採用に取り組む企業にとってはメインターゲットになりえる世代です。
これらの世代はただ給料や仕事内容で就職先を選ぶのではなく、企業が社会に与える影響や働き方なども加味した就職先を決めていると言われており、SDGsによるイメージアップは採用に良い影響を与えると考えられます。
工務店がSDGsを導入する方法
SDGs自体はただの目標なので、それにどのように関わるか工務店側に委ねられる裁量も大きくなります。
SDGsはルール通りに行えばできるものではなく、各工務店の経営スタイルや事業計画に落とし込んでどのような目標、施策を実施するのかを考えなければならない個別性の強いテーマです。
SDGsを工務店経営に導入するためにはどうすれば良いのかについて解説します。
工務店に適した目標
SDGsには17の目標が存在します。もちろんこのすべてを工務店経営に網羅して取り入れることは不可能ですし、そこまでは求められていません。17のテーマから各工務店が取り組めそうなテーマをまず選択すべきです。
代表的なテーマは次のとおりです。
工務店の働く環境整備をする
8.働きがいも経済成長も
工務店の中には女性活躍の推進、労働時間の短縮・効率化といった労働環境整備に取り組んでいる企業もたくさん存在します。これらの取り組みが該当しやすいのが5、8の目標です。
女性でも働きやすいように育児休暇、時短勤務を導入している企業や、生産性を高めるためにIT活用を推進している工務店などはこれらを絡めてSDGsの推進ができるかもしれません。
環境に配慮した資材を使用する
7.エネルギーをみんなに そしてクリーンに
15.陸の豊かさも守ろう
ゼロエネルギー住宅や、スマートハウスといった商品を積極的に販売しようとしている工務店は上記のSDGsの目標に合致した取り組みができていると考えられます。また、国産間伐材を活用したり、地産地消で木材を使用したりしている場合は15の目標にも合致していると考えられます。
おそらく多くの工務店は何らかの形でこれらの目標に関わった仕事をしていると考えられるので、一度何らかの形で関わっていないかサービスの棚卸をした方が良いかもしれません。
地域に貢献する
12.つくる責任 つかう責任
13.気候変動に具体的な対策を
地域貢献系のテーマもSDGsの目標には存在します。それが上記の3つです。
工務店は街づくりに関わる存在であり、人々のライフスタイルに深く関わる存在なので自覚せずとも11、12の目標に関わっているケースも考えられます。
13の目標は工務店が関わるには壮大に思えるかもしれませんが、CO2削減のために何らかの活動をしている(クリーンエネルギーを使用している、そのような住宅を推奨している)、異常気象等の自然災害に対応するBCP(事業継続力強化計画)を策定しているなど細かく落とし込めば意外と工務店の活動に関連した項目です。
その他のテーマ
17のテーマのうち8テーマを当てはまりそうな工務店が実施しているかもしれない取り組みに当てはめて紹介しました。ただし、上記で紹介していないテーマが9つあります。他のテーマは「1.貧困をなくそう」「2.飢餓をゼロ」などですが、これらのテーマの中にも工務店の取り組みと合致したテーマがあるかもしれません。
2.飢餓をゼロ
3.すべての人に健康と福祉を
4.質の高い教育をみんなに
産業と技術革新の基盤をつくろう
10.人や国の不平等をなくそう
海の豊かさを守ろう
16.平和と公正をすべての人に
17.パートナーシップで目標を達成しよう
SDGsを導入する際のポイント
これらのテーマを踏まえた上で、工務店の中には既に行っていた取り組みとこれから行うべき取り組みの2種類が存在すると考えられます。SDGsに合わせてどのように取り組みを整理するのかについて説明します。
既存の取り組みがSDGsに合致していた場合
SDGsに関する取り組みは意外と普段の工務店経営で実施していたというケースが多いです。特に地域密着型の工務店の場合は自社の利益だけではなく地域社会への奉仕、還元もある程度なのでCSRとして既にSDGs的な取り組みをしているケースが少なくありません。
そのため、SDGsに取り組む際にはまずは自社のCSRとして実施している活動、取り組みについて棚卸することから始めてください。活動の棚卸ができればSDGsの17の目標と169のターゲットのどこかに適合しているのではないかとチェックしてください。
SDGsに関連した新規取り組みの場合
SDGs的な取り組みをさらに加えたい場合は新規の取り組みを検討します。といってもSDGsに取り組むためだけに経営資源を割くのは中小工務店にとって大きな労力なので、自社の今後の経営計画の中にSDGs的な取り組みが含まれていないかをチェックした方が良いです。
例えば、現在は実施していなくても今後、検討客に対して森林体験や植樹といったイベントを提供して営業しようとしている場合は、それがSDGsの「15.陸の豊かさも守ろう」にもつながるのでSDGsのために行う新規の取り組みだとアピールできます。
SDGsにのめり込みすぎて工務店の運転資金をこれらの活動に振り分けてしまうと集客の予算が削減され、業績の低迷につながることも考えられます。こうなっては本末転倒なのでSDGsに割くべきリソース管理も行ってください。
プレスリリースする
SDGs的な取り組みはただ実施しているだけでは効果がありません。不言実行で取り組むのではなく、取り組みについて積極的に公開すべきです。
例えば、工務店のコーポレートサイト上でSDGsに関する取り組みを公表するのはもちろんのこと、具体的な活動内容についてはプレスリリースした方が良いです。
プレスリリースとは企業が報道関係者に対して情報提供・告知をすることを指します。大企業だけの活動だと思われがちですが、プレスリリースサイトを活用すれば簡単にプレスリリースが出せますし、地域密着の新聞やコミュニティ紙などであれば十分に工務店のニュースを取り上げてくれる可能性もあります。
プレスリリースを活用して多くの消費者にSDGs的な取り組みを推進していることをアピールすることにより、工務店のブランド価値向上が期待できます。
SDGsは一過性のブームで終わるのか?
SDGsは2030年までの目標なので一過性のブームとして終了する可能性もあります。ただし、SDGsという言葉は無くなっても企業には引き続きSDGs的な取り組みが求められると考えられます。
企業の社会に与える影響が大きくなり、コンプライアンス、適切な企業統治、情報開示などに対する消費者の視線はよりいっそう厳しくなっています。そのためこれらにどのように取り組んでいるかをアピールすることは中小企業のブランディングにおいても必要です。
こうした取り組みを工務店のブランドストーリとしてアピールすることにより、価格競争を回避してマーケティング・営業活動ができます。
工務店のSDGs経営取組事例
既に大手ゼネコンから中小工務店まで幅広い住宅・建設業界の企業がSDGsに取り組んでいます。そして、これらの取り組みの中には自工務店でもすぐに実現できそうな活動が数多く含まれています。5社のSDGsに関する取り組みを元に工務店が取り入れられるSDGs活動について説明します。
竹中工務店
竹中工務店は17の目標全てを対象にSDGs活動をしています。竹中工務店のSDGs活動は大きく分けて「持続可能な建築・町づくり」「環境との調和」「生産性改革/技術革新と共創」「働き方改革」「着実な生産プロセス」の5つのカテゴリーに分類できます。それぞれのカテゴリーで、災害地における復興住宅の建設、グリーンインフラの推進、気候変動や資源循環関連技術の開発・実施など個別の活動を実施しています。
大手ゼネコンの活動なので追随するのが困難な活動もありますが、ダイバーシティの推進、環境変化に応じた若年層社員教育、省エネ・再生可能エネルギーの拡大など中小工務店でも参考になる取り組みも充分あります。
参考:SDGs BOOKLET
安成工務店
安成工務店では「YASUNARIグループのSDGs宣言」と題して、SDGsに関する取り組みをWebサイト上で公開しています。「環境保全」「脱炭素」「ひと」「健康」「まち・コミュニティ」の5つを課題として挙げて、環境共生住宅やOMソーラーシステム、セルロースファイバー断熱材の普及推進、社員大工の育成、地域開発といったさまざまな取り組みを実施します。また各目標のKPIおよび実績についても公開しています。
エコワークス
エコワークスではゼロエネルギーハウスの普及推進、森林認証材使用率の向上、女性雇用率の向上などのSDGsに関する取り組みを実施しています。
また、環境省の「中小企業版2℃目標・RE100」と呼ばれるCO2削減の取り組みにも参加しています。もともと環境保活動には力をいれており、平成24年度には地球温暖化防止活動対策活動実践部門で環境大臣表彰、くまもと環境省ストップ温暖化賞で県知事表彰、低炭素杯2013で最優秀賞の3冠を達成するなどCO2削減に関する取り組みを昔から推進していました。
また、全国の中・高等学校にSDGsと家づくりに関する出張授業をするなど教育活動にも力をいれています。
市川工務店
市川工務店では6つの目標を対象にしたSDGsへの取り組みを行っています。具体的な活動の中身は定年後の再雇用・労働環境の整備、ISO認証の取得、資格取得支援といったように他の工務店でも実施可能な対策が並べられています。
SDGsに関する取り組みをアピールする際に、つい難しい活動を行うことをアピールしたくなり、そのためにリソースを割きたくなるかもしれませんが、SDGsのために特別な活動をするのは中小工務店にとって得策ではありません。それよりも自社の事業計画の延長でどの部分がSDGsと結びつくのかを考えて、その取り組みを着実に進めるべきです。
参考:市川工務店SDGs宣言
SDGsに配慮して工務店のブランド価値を高める
SDGsを考慮した経営を行うことにより工務店のブランド価値は高まり、資金調達、採用力の向上などさまざまな効果が期待できます。ただし、わざわざSDGsのために新しいさまざまな取り組みを始めたり、大きな投資をしたりとのめり込む必要はありません。
特に地域に密着した工務店の場合は自然と地域の街づくりに貢献したり、環境に良い家づくりに取り組んでいたりと既存の取り組みでSDGsの文脈で説明できることはたくさんあります。
新たにさまざまな施策を行わなくてもSDGsは気軽に取り組める施策なので、ぜひ既存の取り組みをSDGsに置き換えて整理し、必要に応じて追加の取り組みを実施してください。